前回は、国や自治体が「公権力として動く場面」と「私人と同じ立場で動く場面」を見分けました。
今回は、その続きです。行政は法律に従って動くのが大原則ですが、法律の条文だけを機械的に見ていると、試験問題のひっかけに足を取られます。
行政法には、条文のすき間や裁量の使い方をコントロールするための一般原則があります。さらに、公営住宅のように、行政目的の制度でありながら、入居後は賃貸借に近い関係として扱われる場面もあります。
行政法の一般原則と公営住宅
コタロー
先生、前回は「国がどの顔で出てきているか」を見るって話だったよね。今回は信義則とか比例原則とか、公営住宅とか、急にテーマが増えてない?
ワンブル先生
増えているように見えるけれど、軸は同じだよ。行政は法律に従う。でも、行政が法律を使うときにも、信頼を裏切ってよいわけではないし、目的と違う使い方をしてよいわけでもない。そこを整理しよう。
ここだけチェック
まずは、行政法総論でよく出る一般原則を、試験用に短く並べておきます。
チェックリスト
- 信義則: 行政も相手方の正当な信頼を不当に裏切ってはならない
- 比例原則: 目的達成に必要な限度を超えて、過度な手段を使ってはならない
- 平等原則: 同じ事情にある人を、合理的な理由なく差別してはならない
- 権限濫用の禁止: 与えられた権限を、本来の目的から外れて使ってはならない
租税では「法律どおり」が強い
信義則を学ぶとき、最初に押さえたいのが租税の場面です。
たとえば、税務署の職員から「これは非課税で大丈夫です」と説明されたとします。コタローはそれを信じて申告しました。ところが、あとから税務署が「やはり法律上は課税です」と言ってきたらどうでしょう。
感覚としては、「いまさら言うのはずるい」と思えます。
しかし、租税は法律に基づいて公平に課されるものです。税務署の職員が間違って説明したからといって、法律上課税されるものが当然に非課税になるわけではありません。
もっとも、行政側が公的な見解を示し、相手方がそれを信頼して行動し、その信頼を裏切ることが著しく不当といえる特別な事情がある場合には、信義則が問題になります。
つまり、試験ではこう整理します。
行政の方針変更と信義則
信義則は、行政の方針変更の場面でも問題になります。
ある自治体が、企業に対して「この地域に工場を建てるなら支援します」と伝えたとします。企業はその言葉を信じて土地を取得し、設計を進め、工事にも着手しました。
その後、市長が交代し、新しい市長が「やっぱり支援は中止します」と言ってきたらどうでしょう。
もちろん、行政は公益のために政策を見直すことがあります。予算や住民の安全、環境への配慮から、方針変更が必要になる場合もあります。
しかし、行政が明確な期待を生じさせ、相手方がそれを信じて大きな投資や準備をしたあとで、合理的な理由なく一方的に覆すなら、信義則上問題になることがあります。
比例原則と平等原則
比例原則は、行政目的と手段のバランスを問う原則です。
たとえば、軽微な違反に対して、事業を全面的に停止させるような重い処分をする場合、「目的達成のためにそこまで必要なのか」が問題になります。
平等原則は、同じような事情にある人を合理的な理由なく違って扱ってはならないという原則です。
同じ違反をしたA店には注意だけ、B店には重い処分というように、扱いの差に合理的な説明がない場合には、平等原則が問題になります。
チェックリスト
- 比例原則では、目的と手段のつり合いを見る
- 平等原則では、扱いの差に合理的理由があるかを見る
- どちらも、行政裁量がある場面で特に問題になりやすい
コタロー
なるほど。法律に書いてある処分でも、行政が好き放題に選べるわけじゃないんだね。
ワンブル先生
その通り。裁量があるほど、一般原則でブレーキをかける必要があるんだ。
権限濫用: 目的外の使い方は許されない
行政庁には、さまざまな権限が与えられています。
しかし、その権限は、法律が予定した目的のために使われなければなりません。
たとえば、本来は子どもの福祉や住民の利益のために施設を設置する権限があるとします。ところが、実際には特定の事業者を妨害するためだけに、後から施設を設置したような場合はどうでしょう。
形式的には施設設置の要件を満たしていても、主たる目的が「嫌がらせ」や「営業妨害」にあるなら、権限の使い方として問題があります。
公営住宅は公法か、私法か
ここからは、公営住宅の話です。
公営住宅は、住宅に困っている低額所得者に低廉な家賃で住宅を供給する制度です。その意味では、強い公共目的を持つ行政制度です。
では、入居者と自治体の関係は、すべて公法だけで処理されるのでしょうか。
答えは、そこまで単純ではありません。
公営住宅法や条例に特別な定めがある部分は、その特別ルールが優先します。たとえば、入居資格、収入基準、明渡し、同居や承継の承認などは、公営住宅制度の目的に沿って判断されます。
一方で、公営住宅法や条例に特別な定めがない部分では、民法や借地借家法の考え方が問題になることがあります。入居後の生活関係は、実質的には建物を使用する関係でもあるからです。
公営住宅の使用権は当然には相続されない
公営住宅で特にひっかけになりやすいのが、入居者が亡くなった場合です。
民間の賃貸住宅なら、賃借権が相続の対象になる場面を考えます。
しかし、公営住宅は、住宅に困っている人を公的な基準で選び、低廉な家賃で住まわせる制度です。入居者の地位を当然に相続できるとすると、入居資格の審査を受けていない人が、そのまま公営住宅を使い続けることになってしまいます。
そのため、公営住宅の使用権は、一般の財産権のように当然に相続されるものではないと整理されます。
同居していた家族が住み続けたい場合でも、「相続したから当然に住める」と考えるのではなく、法律や条例に基づく承認・審査の問題として考えます。
判例問題での読み方
行政法総論の問題では、結論だけを丸暗記すると危険です。
信義則なら、「行政が約束を破ったから違法」とすぐ決めつけるのではなく、どの程度の公的表示があり、相手がどれほど信頼して行動したのかを見ます。
租税なら、納税者の信頼も問題になりますが、それ以上に法律どおり公平に課税する要請が強く働きます。
権限濫用なら、形式的な要件よりも、権限を使った本当の目的が問われます。
公営住宅なら、公法上の制度目的と、私法上の使用関係がどこで重なるのかを見ます。
チェックリスト
- 租税では、合法性の原則が強く、信義則の適用は例外的に考える
- 行政の方針変更では、公益上の必要性と相手方の信頼を比較する
- 権限濫用では、形式的要件だけでなく権限行使の目的を見る
- 公営住宅では、特別法が優先し、特別な定めがない部分で民法・借地借家法を考える
- 公営住宅の使用権は、当然に相続されるものではない
まとめ
行政法の一般原則は、行政権をきちんと使わせるためのルールです。
法律に従うことはもちろん大切です。しかし、行政が相手方の正当な信頼を不当に裏切ったり、必要以上に重い手段を選んだり、本来の目的と違う形で権限を使ったりすることは許されません。
そして、公営住宅のように、行政目的と私人間の生活関係が重なる制度では、「公法か私法か」を一刀両断するのではなく、どの部分にどのルールが優先するのかを丁寧に見分ける必要があります。
コタロー
行政法って、法律の条文だけじゃなくて、行政の動き方そのものを見る科目なんだね。信義則も公営住宅も、前回の「どの立場で動いているか」とつながってきた気がする!
ワンブル先生
いい感覚だよ。行政法総論は、細かい判例を覚える前に、まず判断の軸を持つことが大切だ。法律どおりが原則、でも行政権の使い方には限界がある。このバランスを意識して読んでいこう。
次回は、行政行為の分類や効力を扱い、処分性・公定力・不可争力といった行政法らしい概念に入っていきます。