今回は、行政組織法のうち、公物に関するルールを扱います。
公物とは、道路、公園、学校、河川など、公共の目的に使われるモノのことです。
一見すると身近で簡単そうですが、過去問では、公物の分類、成立・消滅の条件、時効取得の例外、目的外使用に関する裁量まで、細かい知識が問われます。
身近な例に置き換えながら、試験で狙われるポイントを整理していきましょう。
公物の分類と時効取得
コタロー
先生! 民法で「他人の土地でも、長期間平穏に占有し続けたら、時効で自分のモノになる」って習ったよね。じゃあ、誰も使っていない市道の端っこに、ずっと犬小屋を置いておいたら、そこはボクの土地になるのかな?
ワンブル先生
コタローくん、なかなか図太いことを考えるね。でも、道路や公園といった公物は、みんなのための財産だから、そんなに簡単に個人のモノにはならないんだ。原則は「公物に時効取得は成立しない」。ただし、行政法の試験で狙われるのは、その先にある例外パターンだよ。
ここだけチェック
公物法では、まず分類を押さえ、そのうえで「いつ公物になるのか」「いつ公物でなくなるのか」「私人が時効取得できる余地があるのか」を順番に見ます。
チェックリスト
- 役所が使うものは公用物、みんなが使うものは公共用物
- 自然のまま公共目的に使えるものは自然公物
- 人が作って公共目的に使うものは人工公物
- 人工公物の成立には、公用開始の意思表示が必要
- 公物は原則として時効取得できないが、黙示の公用廃止があれば例外がある
公物の分類
公物とは、国や地方公共団体などが、公共の目的のために使うモノです。
公物は、目的や成り立ちによって分類できます。
公用物と公共用物
目的に着目すると、公物は公用物と公共用物に分けられます。
公用物は、国や地方公共団体が自分たちの行政活動のために使うモノです。
市役所の庁舎、公立学校の校舎、警察署の建物、公用車などがこれにあたります。会社でいえば、会社自身が仕事のために使うオフィスや備品のようなものです。
公共用物は、一般の人々が使うために置かれているモノです。
道路、河川、公園、港湾などが代表例です。誰か特定の職員のためではなく、広く一般の利用に供される点がポイントです。
コタロー
公用物は役所が使うモノ、公共用物はみんなが使うモノだね。「庁舎は公共用物である」と出たら、役所が使うから公用物が正解だ。
自然公物と人工公物
成り立ちに着目すると、公物は自然公物と人工公物に分けられます。
自然公物は、人の手を加えなくても、自然の状態のまま公共の目的に使えるモノです。海や河川などをイメージするとわかりやすいでしょう。
人工公物は、人が作ることで公共の目的に使えるようになるモノです。道路、橋、公園施設、飛行場などがこれにあたります。
公物の成立と消滅
ただの土地や施設が、いつ公物になるのか。
逆に、いつ公物でなくなるのか。
ここでは、人工公物と自然公物で考え方が違います。
人工公物は意思表示が重要
人工公物は、人が作っただけでは公物になりません。
道路の形をしたものを作っただけでは足りず、行政が「ここを道路として使います」と公用開始の意思表示をする必要があります。
道路区域の決定や供用開始の告示などが、その典型です。
消滅するときも、原則として公用廃止の意思表示が重要です。行政が「この道路は廃止します」と表示することで、公物としての性質が失われます。
もちろん、道路が物理的に壊れて使えなくなるような場面もありますが、試験上は、人工公物では公用開始・公用廃止の意思表示がキーワードになります。
自然公物は物理的な状態が重要
自然公物は、自然の状態のまま公共の目的に使えるため、公用開始の意思表示は不要です。
海は、行政が「今日から海として使います」と宣言して海になるわけではありません。自然の状態そのものが意味を持ちます。
消滅についても、意思表示ではなく、物理的な状態の変化が中心です。埋立てなどによって自然公物としての形を失えば、その性質が問題になります。
また、海はそのままの状態では所有権の客体たる土地にあたらず、私人が時効取得することはできません(最判昭61.12.16)。
公物の時効取得
公物は、みんなのために使われるモノです。
ここでいう時効取得とは、他人の土地などを一定期間、所有者のように平穏・公然と占有し続けた場合に、法律上その権利を取得できる制度です。
民法では、長いあいだ続いた事実状態を尊重して、権利関係を安定させるために取得時効が認められています。
たとえば、他人の土地だと知らずに長年自分の土地のように使い続けていた場合、一定の要件を満たすと、時効によって所有権を取得できることがあります。
では、同じ考え方を道路や公園のような公物にもそのまま使えるのでしょうか。
結論からいうと、公物については、原則として私人が勝手に時効取得することはできません。
きれいに管理され、道路として使われている市道の上に物を置き続けても、そこが自分の土地になるわけではありません。
しかし、最高裁は、一定の条件を満たす場合には、例外的に公共用財産について取得時効の成立が妨げられないと判断しています。
黙示の公用廃止: 最判昭51.12.24
問題となったのは、公図上は水路として表示されていた土地です。
その土地は、古くから耕作され、私人に占有されてきました。
最高裁は、次の4つの要件をすべて満たす場合には、黙示的に公用が廃止されたものとして、取得時効の成立を妨げないと判断しました。
チェックリスト
- 長年の間、事実上公の目的に供用されることなく放置されていること
- 公共用財産としての形態・機能を全く喪失していること
- 他人の平穏かつ公然の占有が継続しても、実際上公の目的が害されないこと
- もはやその物を公共用財産として維持すべき理由がなくなったこと
ここでのキーワードが、黙示の公用廃止です。
行政が正式に「廃止します」と明示していなくても、現実には長年放置され、公共用財産としての形態も機能も失い、維持する理由もなくなっている場合には、公用廃止が黙示的にあったものとして扱われることがあります。
コタロー
「公物は絶対に時効取得できない」と覚えると危ないんだね。原則は不可。でも、黙示の公用廃止の4要件を全部満たせば、例外がある。
公物の使い方
公物の使用には、自由に使えるものから、特別な許可が必要なものまで段階があります。
一般使用・許可使用・特許使用
一般使用は、道路を歩く、公園で休む、海で泳ぐといった、誰でも自由にできる使い方です。
許可使用は、本来は禁止されている使い方について、行政から許可を受けて行うものです。道路でデモ行進をする、公園でイベントを開く、といった場面をイメージします。
特許使用は、特定の人に独占的・排他的な使用権を与えるものです。道路に電柱を立てる、河川の水を特定の事業のために使う、といった場面が問題になります。
目的外使用と裁量
学校の体育館のような施設は、本来は授業や学校教育のために使われます。
ただし、本来の目的以外に、地域の集会やイベントのために貸し出されることもあります。
これが目的外使用です。
呉市学校施設使用不許可事件: 最判平18.2.7
広島県の教職員組合が、教育研究集会を開くため、呉市立中学校の体育館の使用を申請しました。
しかし、呉市教育委員会は、周辺の学校や地域に混乱を招き、生徒に教育上悪影響を与えるおそれがあるとして、使用を不許可にしました。
問題は、学校施設の目的外使用を許可するかどうかが、管理者の裁量に委ねられるのか。そして、この不許可処分が違法かどうかです。
最高裁は、学校施設を目的外に使用させるかどうかは、原則として管理者の裁量に委ねられるとしました。
学校教育上支障がない場合であっても、合理的な裁量判断により許可しないこともできます。
しかし、この事件では、不許可処分は違法と判断されました。
教育委員会の判断は、重視すべきでない事情を過大に評価し、当然考慮すべき事情を十分考慮していなかったため、社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものとされたからです。
つまり、裁量権はあるけれど、合理的な根拠のない判断で断ることは、裁量権の逸脱・濫用にあたり違法になる、ということです。
まとめ
公物は、行政法の中でも、民法の感覚だけでは処理しにくいテーマです。
みんなのために使われるモノだからこそ、私人が自由に取得したり、管理者が気分で使わせたりすることはできません。
試験本番では、次のチェックリストを思い浮かべて、ひっかけの選択肢を見破ってください。
チェックリスト
- 役所が使うものは公用物、みんなが使うものは公共用物
- 人工公物の成立には、公用開始の意思表示が必要
- 自然公物の成立・消滅は、意思表示ではなく物理的な状態で考える
- 公物の時効取得は原則不可だが、黙示の公用廃止の4要件を満たせば例外がある
- 目的外使用を許可するかどうかは、原則として管理者の裁量に委ねられる
- 合理的な根拠なく不許可にすると、裁量権の逸脱・濫用として違法となる
これで、行政組織法から公務員法、公物法まで、行政法総論の重要テーマを扱う連載講義は一区切りです。
法律のルールや判例の結論を丸暗記するのではなく、なぜそのようなルールが必要なのか、誰の利益を守ろうとしているのかを考えると、行政法の見え方が変わってきます。